「島ごと美術館」文化の薫る町づくり

広島県瀬戸田町への研修視察報告

(2)瀬戸田町 島ごと美術館7月10日訪問
 瀬戸内海のほぼ中央に位置する瀬戸田町は2つの島から成り、人口約9600人。古くは塩田で栄え、戦後の経済復興時頃から、みかんの町、造船の町、観光の町として発展。また音楽と芸術鑑賞、海水浴なども堪能できる表情豊かな町である。
 瀬戸田では、いたる所に野外彫刻が見つかる。風を受けて動く帆のような彫刻、楽器の形をした彫刻、かと思えば見る人の感性でイメージが広がる不思議な形をした彫刻。作家自らが設置したい場所を決め、そこからイメージされる作品を製作したもので、全部で17点が町の事業として設置された。瀬戸田は島ごと美術館という所以である。加えて日本を代表する画家の平山郁夫美術館、信仰か観光か仏閣としては異彩を放つ耕三寺(写真)と「未来心の丘」があり、また音響のよさを誇るクラシック専用のベル・カントホールを建設するなど、個性的な「文化の薫る町」として町づくりを進めている。
 島という閉じた空間は、訪れた人に日常から離れた別世界のイメージを抱かせるが、それがこの町の観光の要と思われる。穂高町も安曇野という、都会の喧騒を離れた別世界のイメージと、それを裏切らない観光と文化の町を目指しているが、この瀬戸田町の例は大変参考になった。特にベル・カントホールの運営に住民参加の公演実行委員会が大きく関わっている事や、演奏家の育成、聴衆の育成、制作スタッフの育成など、舞台芸術に関係する「人」の育成までも考えているなど、その発想・理念は穂高町の芸術文化施設の建設にも活かしていきたい。
 以下は町に提出した研修視察報告では省略した耕三寺について。「文化の薫る町」の期待を裏切る?ようなケバい印象の耕三寺、これがなかなか面白かったのです。耕三和上が母親の菩提追悼のために30年以上かけて作り上げた、浄土真宗本願寺派の寺。全国の有名な仏教建築を模したものが建ち並び、さながら仏教建築テーマパーク、地下には地獄巡りコース、山頂には大理石尽くめの「未来心の丘」なんてのまである。耕三和上は出家する前は、軍需産業で莫大な富を築いたという。亡母への強い思慕、軍需で儲けたことへの罪滅ぼしなど、この寺院建設の背景にあるのかも。 物見遊山の観光客には平山郁夫美術館より楽しめる。そして、まじめな話、耕三寺宝物館の仏像は美術史的にも芸術的にも価値の高いもので、平山美術館よりも見応えがありました。