安曇野市新庁舎建設の事業費試算額を公表

「実質負担額」という表現で大きな借金を見えにくくする

 「庁舎建設見直しの請願をした人たち、建設費は60億円って言ってるらしいけど、根拠のある数字なの?60億もかかるなんて言ったら、そりゃ反対するよね・・・」
 昨年2月ごろのことです。「市民の暮らし優先の市政のために安曇野市新庁舎建設の見直しを求める請願」の紹介議員の一人であった私は、建設推進派の議員から、そう言われました。「特例債を使うから60億円もかからない」とも。

 昨日20日開催の議会全員協議会では、新庁舎建設候補地5カ所について、事業費の概算など具体的な数字が出てきました。豊科プール=78億円、近代美術館付近=79億7千万円、現本庁・県安曇野庁舎=82億3千万円、豊科総合支所=87億3千万円、東洋紡績=96億円。どこをとっても60億円なんてものではなく、80億、90億という金額が並んでいます。

 にもかかわらず、財政面での不安を訴える議員は少なく、「ここがいい」「あそこがいい」「いや、そこはダメだ」といった意見ばかり続くではありませんか。そこで私が「安曇野市の財政の現状と今後の見通しから考えると、80億、90億もかけて市庁舎を建てることなど考えられない」と、反対の口火を切りました。すると、やはり財政負担の懸念から「5候補地にとらわれずに既存の庁舎を最大限活用するように求める意見」も出てきました。宮澤市長は『既存施設を活かして必要最小限の範囲で』と言っていたのに、いつのまにか『必要最小限』で1カ所にまとめる話になってしまったようで、私もそのあたりの経緯は理解できません。

 今回提示の資料を見てみると、概算事業費のほかに合併特例債を使った場合の市の実質負担額も示されているのですが、例えば豊科プールのところなら事業費78億円のところ市の実質負担は28億9千万円だというのです。「実質負担」という言葉はクセモノです。 安曇野市本庁舎等建設基本構想19ページの説明とグラフを落ち着いてよく見てください。〜返済額の70%が国から“交付される”〜と書かれているので、国が返済額の70%をそっくり返してくれると思ってしまいますが、これは正確には“交付税措置される”ということ。地方交付税の算定基準になっている市の基準財政需要額に算入されるということで、返済額が交付税に上乗せされるイメージとは違います。それで気が引けたのか、円グラフの説明では「建設事業費の自己負担率」として〜合併特例債の借入額に対する地方交付税算入額〜というように“算入”の2文字をちゃんと入れています。

 いずれにしろ、もうみなさんよくご存知の通り「地方交付税」も本をただせは私たちの税金です。「市の実質負担」が少ないからといって呑気に構えていないで、安曇野市の財政の現状をふまえて、慎重に検討することが必要です。

 安曇野市の予算編成方針を見てみましょう。「一昨年秋以降の世界的な景気減退が進む中、市税の増加は見込めません。特に法人市民税については、景気減退の底打ちの兆しが見られるものの、企業経営の状況から増加は見込めません。さらに、少子高齢化社会の進展による社会保障関係の増加見通しや、国の政権交代による経済状況を注視する中、厳しい状態での予算編成を進めてきました」とある通りです。一言でいえば「厳しく、余裕はない」ということ

 一番わかりやすいところ、というか気になるところで説明すると、合併後の5年間の歳入額では年々地方債借入(借金)が増加し、結果として歳出での公債費(借金返済)も大きくなってきました。今後の財政予測については第1次総合計画の実施計画にありますが、市庁舎建設を見込んで当然ながら借金も返済額も増加していきます。しかし、このところの不況で生活困窮者が増え、扶助費の伸びが気になる一方、市税収入や交付税の増加は見込めない。とすれば、どうなりますか?

 これについては、「毎年40億の借金をして、40億の返済をしていく、当然この中に庁舎建設も入っているんで、住民になんら負担は無いはず・・・」と委員会(※)で発言した議員がいますが、とんでもないことです。なぜなら、この財政計画は一般(普通)会計だけをみたもので、下水道会計など特別会計の大きな借金(残高400億円以上)や、今後増加が心配される国保や介護保険への繰出し金のことなど計算に入っていないからです。
 こんなことを平気で言えるのですから、安曇野菜園の問題にもさほど関心がないのでしょう。破綻処理には20億円以上、再建するにも10億円という財政負担が見えてきたにもかかわらず、市庁舎建設や財政問題に関連づけて検討されないのはどうしたことでしょう。

※委員会とは安曇野市本庁舎建設等検討市議会特別委員会のこと

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