三セク住民訴訟と安曇野市の対応を振り返る(その1)

市民オンブズマン松本大会で安曇野菜園損失補償問題の報告

 第18回全国市民オンブズマン大会が松本市で開催されました。大会テーマは「震災・復興と、市民オンブズマン」。3.11震災前は第三セクターと損失補償問題だったのですが、緊急性ということ、今やらなくてどうするということで、このテーマ変更は当然でしょう。それでも、4日の午前中には安曇野市の3セク損失補償問題の報告をということで、わたしと中島弁護士が住民訴訟と高裁の「加藤判決」(損失補償契約は違法)について発表しました。
 大会の資料集のために書いた「三セク住民訴訟と安曇野市の対応を振り返る」を3回に分けて、ここに掲載します。

三セク住民訴訟と安曇野市の対応を振り返る(その1)

2007年11月21日 三郷ベジタブルの使用料徴収にかかわる住民訴訟
 安曇野市が出資する第三セクター「三郷ベジタブル」(現安曇野菜園)に、トマト栽培施設使用料の支払いを求める住民監査請求を行ったのは2007年8月31日のことでした。以下の3点を要求し、②の「安曇野市の平成19年度一般会計予算を増額補正するように勧告すること」だけが認められ、それ以外については「監査請求する理由がない」ということで棄却となりました。

 ①市は、総額7億1,380万円となるはずの㈱三郷ベジタブルにかかる使用料につき、減免したり使用料の一部を時効消滅させてはならないと勧告すること。→棄却
 ②市は、㈱三郷ベジタブルに、トマト栽培施設使用料7,138万円を直ちに請求し→棄却、安曇野市の平成19年度一般会計予算を増額補正するように勧告すること。→市長に勧告。
 ③市は、市(旧三郷村)と㈱三郷ベジタブルおよび金融機関が結んだ2億5,000万円の損失補償契約は直ちに解除すること。その際に市に生じる損害は、当初の契約責任のある旧三郷村長であった副市長が弁済するように勧告すること。→棄却

 一部ではあれ認められた点は評価するとしても、市民が期待したのは「将来性のないトマト栽培の事業を強引に進めた旧三郷村行政と村長(当時の安曇野市の副市長で㈱三郷ベジタブル会長)の責任を明確にし、今後二度とこのような問題を起こさぬようにすること」であり、残念ながらそこまで踏み込んだ監査はなされませんでした。市の監査委員というものは「身内の監査」でやりにくいのでしょう。市議会の追及も甘く、問題は先送りされるばかり。住民監査請求で第三セクターの会社を追求することの困難さと、市の監査の限界を感じました。

 このうえは、住民訴訟により責任を追及したいと考え、2007年11月21日に、三郷ベジタブルの使用料徴収と損失補償契約について、安曇野市の対応の違法性を問う住民訴訟を長野地裁に提訴しました。
 住民訴訟といっても、訴えうる違法性は限られており、勝訴の可能性も高くはありません。行政が訴えられた場合、裁判所は「行政の無謬性」にこだわります。行政が間違えるはずがないと思い込んでいる(信じている?)ので、行政側が敗訴する判決など書きたがらないのです。しかし、訴訟を闘うプロセスそのものが、第三セクターや三郷ベジタブルの問題を市民に明らかにすることにつながり、そこに大きな意義があると考え提訴に踏み切りました。ウヤムヤにはできない重要な問題であり、市民からの問題提起が今後の市政に大きな影響を及ぼすとともに、住民自治への関心を高める契機としたかったのです。

2009年8月7日 地裁判決言渡し、原告訴え2点を却下、その余は棄却
 原告請求について、2点を却下。その余の請求についても、いずれも棄却となりました。

 判決は、安曇野市が起債償還するために、三郷ベジタブルが支払うべき施設使用料に相当する年間7000万円を税金で賄っていることや、金融機関からの融資に安曇野市がどのような事情で損失補償しているかについては直接触れていません。また、「三郷ベジタブルの信用だけでは融資ができない場合に、地方公共団体による損失補償がされることで融資を行おうとすることは何ら不当なことではない」と判断していますが、これ一つ取っても市民感覚からは程遠い判決だと言わざるをえません。

 原告側の中島嘉尚弁護士は、「判決は、訴えの要件をほとんど判断していない。公の施設(トマト栽培施設)の賃貸借契約は地方自治法に違反していることや、安曇野市が三郷ベジタブルから施設使用料をとらないことで同社が不当利得を得ているという、訴えの内容に踏み込んで判断していない。“門前払い”だ。控訴して上級審の判断を仰ぎたい」と述べ、わたしたち原告も当然同意しました。

2009年11月15日 住民訴訟/控訴審スタート/東京高裁
 安曇野市のトマト栽培第三セクター・安曇野菜園(旧三郷ベジタブル)経営をめぐる住民訴訟は09年11月11日、東京高裁で第1回口頭弁論が開かれました。

 加藤裁判長に「どこで決着するのか」と問われた中島弁護士は「賃貸借契約でないとする被控訴人側は、“読み替え”というが、賃貸借はあくまで賃貸借契約であり、読み替えなど理解できない」と主張。加藤裁判長は「真意、あるいは明示でなく黙示ということか」と(賃料読み替えの)意味を分析したうえで「ナンセンスだよね」と端的な評価を述べました。そして「地方自治法改正で制度が切り替えられたとき、なぜ書面をつくらなかったか」と被控訴人側に問い、これに対し弁護士は「三郷村は、司法試験合格職員がいる東京都のような自治体ではない。よくわかっていなかったため従来どおりの形(賃貸借契約)にした」と説明した。

 控訴理由第2項の丙事件請求(1)(2)=賃貸借契約の無効確認など=について中島弁護士が水戸地裁判決を判例に説明。加藤裁判長は「請求は、ものになりそうな請求に絞るように」と指示した。控訴理由第3項=金融機関との損失補償契約=については、中島弁護士が保証契約と実質同じであると説明したのに対し、加藤裁判長は「どこにポイントを置いて決着をつけるか」と聞いた。中島弁護士はA農協との損失補償契約が「連携して債務履行に任じる」としていることに注目していることを強調した。
中島弁護士から「高裁であれほどのやりとりは珍しい。油断はできないが、関心を持っているようだ」と評価。

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