「議会として政策提言に努める」には程遠い形ばかりの議論

2014年4月22日市民タイムス記事

 安曇野市は拡大する松枯れ被害の対策として「6月中旬に有人ヘリによる特別防除をする。明科東川手の潮沢地区と豊科田沢の大口沢地区の2カ所、潮沢はマツタケ産地で、急峻な地形。大口沢では昨年行った無人ヘリによる散布では間に合わない松林を検討中」と説明していましたが、大口沢地区では農業用水の水源があり、有人ヘリによる空中散布はできないことが確認されました。
 もう一カ所の明科東川手の潮沢地区の岩洲公園周辺の山林では、絶滅危惧種のノスリ(タカ科の鳥)が生息している可能性があり、調査が必要だということです。ノスリが営巣しているようなら、空中散布はできません。(4月2日に現地視察した時、ぞろぞろとやってきた視察団を警戒しながら低空飛行するノスリの姿を確認)

 この二つの事実をふまえれば、議会として「薬剤の空中散布の推進を市行政に要望する」など、あまりに安易な政策提言です。
 これまで市と県の担当者から松枯れのメカニズムと被害対策について話を聞き、その後3回にわたり都合5時間ほどの意見交換をしました。
 意見交換といっても、発言する議員は半数もなく、議長が発言しない議員に、はじから意見を求めて終わりという、深まりのない議論に終始しました。
 にもかかわらず、「薬剤の空中散布の推進を提言」するとは、行政の後押しになるどころか、足を引っ張ることになりかねません。

 この意見交換会、まるで始めから、空中散布ありきで議論が方向付けされているように感じられました。「農薬の空中散布が松枯れに効く」という確証はないことや、「農薬を空から無差別に撒くことの危険性」を訴えようとしても、「安曇野から松が消えてしまったらどうするんだ。思い切って空中散布で抑え込むしかない」、「田んぼや畑に農薬を撒いているのだから、国の基準に合った薬を使って危険なはずはない」、「県の空中散布の指針に従えば、市内には空中散布できる場所はほとんどないというが、ならば市独自にやることを考えたらどうか」、「今ここで空中散布しないと松は全滅だ」等々、感情論や根拠に乏しい持論を言うだけの人が多く、意見交換にはなっていなかったように思います。わたしなど、言いたいことのほんの一部しか話ができませんでした。

 指名されて形ばかりの発言する人がいくらいても、議論を深め知見を広げるためには役立ちません。問われて答える。それを聞き、さらなる問いが発せられる。対する答えはまた一段と深化する。共通認識が生まれる。そういった議論の流れのなかで、同じ人が何回も発言することは当然に出てきます。そのやり取りを聞くことで、発言しない人も自身の考えを確かめ、深めることができるのではないでしょうか。指名されるままに全員が発言したからといって、それで議論が深まるわけではありません。

 議会基本条例ができたことで、こうした議員間討論、意見交換の場ができたことはよかったですし、一歩前進ではありますが、こんなやりかたで良しとしていては、何のための議員間討論かということになってしまいます。
 初めての議員間討論だったので、試行錯誤的に進めるしかなかったのでしょうが、議会改革推進委員会の委員長である私としては、議長にお任せで準備不足だったと反省しています。

 いい会議にするためには「目的が明確であること」が何よりも大事ですが、この目的が「空中散布をするため」という人もあれば、「松枯れ対策に知恵をしぼるため」という人もいて、明確になっていなかったことが、最大の問題だったと思います。前段で「まるで始めから、空中散布ありきで議論が方向付けされているような感じでした」と書きましたが、会議の目的が明確でなかったために、議論がそちらに流れてしまったのでしょう。
 いずれにしろ、このような不十分な意見交換から政策提言を導き出すことは困難。議長は市議会としての考えを示すとして、薬剤の空中散布の推進を提言するつもりらしいですが、再検討が必要だと思います。