福祉教育委員会・視察レポート

金沢21世紀美術館/市民とつくる参画交流型美術館

はじめに
 「金沢21世紀美術館」は今話題の美術館で、一度は行ってみたいと思っていましたが、10月3日に福祉教育委員会の視察で訪れる機会を得ました。
 金沢市の中心地、兼六園もほど近いところに建つこの美術館は、幹線道路からもよく見えます。入口はどこかと、バスで周辺を回りながら、美術館のたたずまいを眺めているうちに、「この雰囲気は初めてではないなあ・・・」と遠い記憶がよみがえってくるような感覚をおぼえました。館の入り口をくぐり、中に入って、行きかう人々や子どもたちの姿や表情を目の当たりにしたした瞬間、初めてではないと感じた「遠い記憶」は、デンマークのルイジアナ美術館だと思い当りました。

 30年前に見学したルイジアナ美術館(1958年開館)は、そのときすでに「金沢21世紀美術館」のコンセプトを先取りした美術館であったと言えるでしょう。日本の美術館の多くは、当時も今も重厚で堅苦しく敷居が高いといったイメージが強い。そのような美術館しか見ていなかった私には、ルイジアナ美術館は「これが美術館?こんな美術館があるんだ!」と大きな衝撃でした。

 美術館と庭園と街が一体化したロケーション、ガラスを多用していること、円型、回廊式の建物で、街に開かれた美術館であること。現代美術のコレクションが主体であること。ミュージアムショップやカフェ、子ども向けのワークショップ(教室)などがあり、大人も子どももゆっくり楽しむことができるように工夫され、1日いても退屈しない美術館。等々、ルイジアナ美術館と「金沢21世紀美術館」とは共通点が多いのです。
 日本の美術館もやっとここまで来たのかという思いと、今やさらに進化した新しい美術館「金沢21世紀美術館」に期待して視察しました。

1、「金沢21世紀美術館」の概要
 「金沢21世紀美術館」の建築コンセプトは、「まちに開かれた公園のような美術館」。香林坊や兼六園にも近い中心市街地の約2万7,000㎡の敷地は、もとは金沢大学附属小中学校があったところである。金沢市の中心部の空洞化を避けたいとの思いで、跡地利用の検討が始まったのは1995年のこと。その後、金沢市は、にぎわい創出のための施策として、美術館を核とした文化施設の構想を選択した。全国の公立美術館においては、入館者数の減少や財政難による予算削減など「冬の時代」と言われるような状況にあり、当然のこと賛否両論相半ばするなか、あえて「術館でにぎわい創出」を掲げて、2004年10月に「金沢21世紀美術館」は開館したのであった。

 金沢21世紀美術館の特徴については、金沢21世紀美術館公式ホームページをご覧ください。

2、「金沢21世紀美術館」の現在の状況
 開館前には年間入場者数目標を30万人としたところ、3ヶ月ほどで41万5,000人の入場者を数えるに至り、現在は、平日平均で3,000人、休日平均で5,000人〜6,000人程度の入場者数で落ち着いている。開館当初は、1日の最大入場者数1万6,000人ということもあった。館内は有料の美術館スペースを中心に、その周囲をぐるりと無料スペースが取り囲むという、ユニークな作りになっているが、その無料ゾーンも含めた入場者数である。有料ゾーンについても、入場料収入が前売り券分を含めて目標をクリアしている。

 とはいえ、市から入る指定管理料7億2000万円に対して、入場料収入年間2億500万円である。建築費は113億円かかっている。金沢市の一般会計から見てもかなりの財政負担である。当初、「現代を映す鏡か、100年後のゴミか?」という批判の言葉があったのも当然で、市としては街づくりへの責任も含めて、美術館の存在意義を市民に訴え続けている。

 また、美術館の基本コンセプトをふまえ、地域・市民の美術館、市民の憩いの場とするために、市民を巻き込み、各種イベントなどの企画をしている。近隣の商店街が美術館と連携してイベントを企画することもあり、商店街に続く街路が美術館で交差するという類稀な環境が十二分に活かされているのも魅力の一つとなっている
 ちょっとしたきっかけで美術館に関わることになった市民のなかには、単にお手伝いで終わってしまうだけではなく、より主体的になりボランティア以上の働きで、美術館には無くてはならない存在になっている人も多い。

 さまざまな企画やイベントは、常にその内容をチェックし・事後評価を行うといった、議論→実践→検証の繰り返しを重視し、丁寧に積み重ねていくなかで、少しずつ市民に理解され受け入れられ、次世代の子どもたちにも歓迎されるようになってきた
 一例をあげれば、子ども向け企画のミュージアム・クルーズに参加した子どもたちが、クルーズ終了後には、お父さんやお母さんを連れて再び美術館にやってくる、そんな状況にこの「金沢21世紀美術館」の今の姿がもっともよく表れていると言ってよい。

 こうしたこれまでになかったユニークな取り組みにより生まれた美術館は、開館当初から注目の的となり、美術館関係者はもとより、建築、デザインなどアートに携わる人々の美術館詣では引きも切らず。また、そういった状況や評判が、一般の集客にも大きくプラスに影響している。 

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