2013年5月・環境経済委員会視察研修の報告
~山梨県 道志村の薪ボイラー導入について~
山梨県道志村はバイオマスタウン構想の一環として、間伐材を循環エネルギーとして活かす森林再生事業に積極的に取り組んでいる。今回の視察研修では、“道志の湯”(道志村の村営温泉)に設置された薪ボイラー(製品名・ガシファイヤー Gasifier )設備とその薪材調達状況を視察した。
道志村(どうしむら)は、山梨県の南東に位置しており、山梨県の最東端となる村である。2012年に「日本で最も美しい村」連合に加盟したこの村は、「横浜市民ふるさと村」として横浜市とは古くからの友好関係にある。これは、1897年(明治30年)に横浜市水道が道志川から水道原水の取水を始めたことによる。
横浜市は単に道志村を水源地とするだけでなく、1916年(大正5年)に山梨県より村内の県有林約 2,800haを取得し水源涵養林の保全に着手、以降現在まで横浜市と道志村は協働して水源林を保全している。この良好な両自治体の関係から、2003年(平成15年)には住民発議により横浜市に合併を申し入れた経過もある。(距離のある越境合併となること等から実現はしなかった)
多くの横浜市民が「横浜市民ふるさと村」である道志村を訪れ、多種多様な体験等を通じて自然に親しむなかで、都市と山村との交流が活発になり、横浜市民にとどまらない観光集客の拡大や農業振興、森林保全にもつながっている。
丹沢山を控えた奥深い山里の道志村を実際に訪れてみて感じたことは、今回の視察目的であった温浴施設「道志の湯」に薪ボイラーを導入した行政の前向きさや、「道の駅どうし」のにぎわい、村の活気や村人の元気・勢いであった。
道志村から都心へのアクセスは、山間地というイメージに反して意外に容易であり、相模原市の橋本駅まで自動車を利用し、電車に乗り換えれば都心まで9 0分という至近距離に位置している。この立地を活かし「日本で最も美しい村」として、農業・観光・環境保全の観点から、「日本一の水源の郷」に向けて自立した協働の村づくりをめざすというのは、理想的かつ現実的で実現可能ではないかと感じた。
1、山梨県道志村の地勢・自然の概要
北東から西南に延びる山間に立地し、村の中央を道志川が流れる。村全体は木の葉の形をしており、葉脈部分に「道志みち」に当たる国道413号が通っている。古くから道志七里と呼ばれた山間抜け道沿いの山間集落であった。
[総面積] 79.57k㎡(東西28km、南北4km)
[位 置] 東経139度02分 北緯35度32分
[標 高] 400から820m(居住地)
[年間平均気温] 11度(年間最高気温34度/年間最低気温-5度)
[年間平均降雨量] 2,223mm/最新積雪40㎝
[主要道路] 国道413号
[主要河川] 道志川(流程28km)
2、道志の湯について
[道志の湯]
村営の温泉施設。道志村が100%出資する第三セクター「㈱どうし」が指定管理者。
道志の湯は冷泉であるため、これまで重油ボイラーで加熱して温泉として利用していたが、道志村バイオタウン計画の一環として薪ボイラー・ガシファイヤー5基を平成24年4月に新たに設置した。
第1号源泉 35.6L/分 T=17.8℃ → 75℃ (ボイラー室)
第2号源泉 42.0L/分 T=212℃→ 75℃ (ボイラー室)
[計画協力] ガシファイヤー導入はバイオマス構想の一環として、㈱森のエネルギー研究所が計画協力している。
[設備概要] ガシファイヤー5基 75KW × 5基=375KW (最大出力322千Kcal)
補助重油ボイラー930KW (従来設備)
[設備費] 薪ボイラー設備工事費 4,600万円
[稼働開始] 平成24年4月1日 新規稼働
[営業状況] 営業日数 340日程度/年(休日は1回/月、および冬季)
[営業時間] 営業時間 10:00~21:00 (ガシファイヤーは8:00~19:00の間 燃焼稼働)
3、ガシファイヤーGasifier設備稼働状況について
[設備状況] 重油ボイラーは補助装置となっているが、使用湯量が多いので重油ボイラーの稼働率は高い。ガシファイヤー 60%~80% 重油ボイラー 40%~20%
[専従担当] 1名(8:00~19:00 薪受入れ、薪割、薪投入、燃焼管理 等)
[薪投入量] 2.5-3.0㎥/日 (軽トラック5台分、20m級全幹木10~12本相当)
燃焼室近くのラック4幅分が1日分に相当
年間薪材必要量 25-30㎥×340日=850㎥~ 1020㎥
(全幹木 3,400~4,080本/年相当)
[薪材購入] 薪材のサイズ 長さ=80cm、径=6~20cmφ
購入価格 スギ・ヒノキ=5,000円/㎥(内1,000円は地域振興券)
ナラ等の広葉樹 =6,500円/㎥(内1,000円は地域振興券)
含水率 40%以下(購入条件でない。実際の含水率はさまざま)
[燃料費] 従来=1700万円/重油・年
現状=1200万円・年(700万円/重油+500万円/薪材)
[薪提供者] 80% NPO等の搬入 20% 村民からの搬入
(その他最近横浜市水源林管理所からの材の提供があった。)
[薪材置場] 薪材置場(ストック場)はボイラー建屋に隣接した場所および300mほど離 れた“木の駅どうし”の2か所。
① 燃焼室付近置場・・・・・簡易屋根付き置場 現状3~5日分のストック
② 木の駅(仮)置場・・・・屋根なし置場 現状5~10日分のストック
4、まとめ(研修の成果と所感など)
○ 林野率94%の道志村。この森林資源こそ道志村の最大の資源ととらえているところが素晴らしい。「水源林の再生・活用プロジェクト」が進行中であり、バイオマスタウン構想は、このプロジェクトを推進する重要な役割を果たしている。横浜市と道志村が長きにわたって協働して水源林を保全してきたことから、道志村行政も住民もバブル期のゴルフ場開発には乗らず乱開発をしなかった・させなかった経緯があり、この歴史が村の新たな将来構想とそれを支持する村民の意識につながっていると思われる。
また、養老孟司氏を会長に迎え「サステな水源会議(サスティナビリティ持続可能な社会に掛けた名称)」を設け、村の政策に反映していくということで意欲的な取り組みの姿勢が感じられた。
○ 道志森林再生協議会は山梨県・新しい公共モデル事業の助成団体(道志村・NPO 道志・森づくりネットワークなど5団体で構成)として、道志村の「間伐材の循環する村づくり」を推進する担い手育成事業に取り組んでいる。安曇野市でもこのような形の取り組みが重要になってくると思われるので、道志村の事業展開をモデルとして検討したい。
○ 安曇野市の課題である松くい虫被害対策については、昨年9月に対策協議会を設置し新たな対策に向けて活動を開始したが、市としても初めてのことで試行錯誤の状況である。道志村の一歩先行く取り組みと、その実践の中から掴んださまざまなアドバイスはたいへん有益であった。
○ 安曇野市における松くい虫被害では明科中山間地域が激害地であり、被害木を含めた赤松の70%以上を伐採搬出し、赤松林を広葉樹林などに樹種転換する更新伐を進めていくことになった。その被害材の活用として、長峰山森林体験交流センター天平の森に薪ボイラーを設置することになっているので、道志村の薪ボイラーの導入実績、特に赤松材の薪について話を聞くことができ参考になった。
薪材の含水率については40%を目安にしているが、赤松に限っては20%ぐらいに乾燥させた方が扱いやすいとのこと。ただし、道志村ではスギ、ヒノキが多く赤松はほんのわずかしかないので、もっぱら赤松材だけを焚くということはなく、含水率はそれほど気にしなくても貯木場に置いておくうちに乾燥していくので問題ないということであった。
安曇野市の場合は赤松が圧倒的に多いが、松くい虫被害木が主であることからもともと含水率は低く、伐採後さほど乾燥に時間をかけなくても薪として使える利点がある。
○ 道志村の薪材収集の仕組みもたいへん参考になった。特に「木の駅プロジェクト」はユニークな活動で、間伐したものの山に放置されたままの材など(林地残材)を「木の駅」に出荷してもらうことで、森林整備が進み、地球温暖化ストップにわずかながらも貢献でき、そして自分にはご褒美の晩酌代ぐらいにはなる、というもの。道志村では地域振興券も使えるようにしているが、地域通貨の創出・活用もおもしろいのではないか。森林面積が61%を占める安曇野市の地域性から、日曜林業や障がい者雇用も視野にこの「木の駅プロジェクト」導入を検討したい。
○ 松くい虫被害木の伐倒駆除 2万3千3百円/m3というコストを考えると、被害木を早期に発見・伐採し薪として活用するシステムを「木の駅プロジェクト」のような取り組みに倣って作りだす方が賢いと思われる。そうすることで地域経済も潤い自然環境にもやさしい安曇野市として全国にアピールできるのではないかと思う。