松枯れ対策、有人ヘリ空中散布など質す
~安曇野市を考える市民ネットワーク・横地泰英さんから届いた傍聴記です~
安曇野市3月定例市議会は2014年3月10日(月)、最後の18人目の一般質問に立った小林純子議員が、被害の拡大が止まらない松枯れ対策について、市の対応を質した。
宮沢市長は「被害は急速に拡大している。部を横断して連携、組織を強化して対応する。無人ヘリによる薬剤散布は一定効果があるが、急峻な岩場のマツ林など有人ヘリでないとできない部分がある。人体への懸念に配慮しながら住民と意見交換し、実施したい」と表明。
山田農林部長は「6月中旬に有人ヘリによる特別防除をする。明科東川手の潮沢地区と豊科田沢の大口沢地区の2カ所、潮沢はマツタケ産地で、急峻な地形。大口沢では昨年行った無人ヘリによる散布ができないマツ林を検討中」と説明した。
小林議員は「『地元の要望』というのは実は難しい問題。〝やってほしい〟という声に圧されて、反対したい気持ちの人もたくさんいるが、表には出にくい」と空中散布問題の難しさを指摘。ネオニコチノイド系農薬の散布の環境影響等について説明を求めた。
農林部長は「散布前後に大口沢周辺の河川でおこなった水質調査では、農薬濃度は基準値未満の微量だった」という。小林議員は「安全で効き目があるという一方のデータだけでは、空中散布の効果があるなど言えない」と指摘した。また「空中散布は安全だ、松枯れに効くというデータがあれば、危険だ、効かないというデータも同じくらいある。(一般質問という)限られた時間で農薬や空中散布の安全性の議論をしてもはじまらない。空中散布に過度の期待をすることなく、自然の摂理にかなった方法による中長期対策」を求めた。
農林部長は「西山、山麓線地域には別荘や民家が混在していて有人ヘリによる空中散布はできない。東山は地上散布か空中散布で、守るべきマツ林を定めて地域に応じて対応したい」と述べた。
小林議員はこの問題の最後に、滋賀県琵琶湖研究所の初代所長、吉良竜夫氏(元日本生態学会会長が松枯れ病を考察した文章を読み上げて質問を終えた。深い知識と自然への愛情に満ち、考えるヒントになります。別稿で添付します。
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安曇野市議会は3月11日(火)、2014年度一般会計予算案について議案質疑を行い、小林純子議員は「安曇野市の公共建築物・公共土木工事における地域材の活用」などについて市側の説明を求めた。農林部長は「長峰山頂の展望台、建設中の市役所本庁外壁材、市内2中学のフローリングなどに地域材を使用している。地域材の活用は関係部に周知してもらう」と幅広い取り組みを説明。
小林議員は「本庁舎の外壁材など、農林部予算で市有林の材が使える!目からウロコの〝別だて予算〟で驚いた」と評価。
(まとめ=安曇野市を考える市民ネットワーク・横地 泰英)
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琵琶湖・アカマツ林・松枯れ病
元日本生態学会会長 滋賀県琵琶湖研究所の初代所長 吉良 竜夫
昔の日本では、山から森の下生えの草木を刈ってきて、それを青いまま水田にふみこんで肥料にしていました。また、落ち葉も重要な肥料、燃料でした。このように、森がつくった有機物を人間が横取りしつづけると、山の土はだんだんやせて、もとから生えていたシイやカシの木は育たなくなり、やせ地に強いアカマツしか生えられなくなります。日本のアカマツ林の大部分は、こうしてできたものと思われます。平地の農村地帯に近い、低い山にだけアカマツ林が分布しているのは、そのためでしょう。
(略)
そのアカマツ林が、いま松枯れ病のために全国的に大打撃をうけ、全滅しはしないかと心配する人さえある状態です。大規模な薬剤の空中散布が行われているにもかかわらず、その進行は止まりそうもありません。なぜ止まらないのでしょうか。
それは、病気だけが原因ではないからです。松枯れ病は、マツノザイセンチュウを病原体とする伝染病ですが、ほかの伝染病と同様に、病原体が体に入ったからといってかならず発病するとはかぎりません。伝染病がひろがるには、直接の原因である病原体のほかに、健康状態や環境条件も大きくかかわっているのです。
日本のアカマツ林は、明治以後しだいに肥料の供給源としての役割を失い、第二次大戦後は、燃料・用材源としてもほとんど使われなくなりました。病気で枯れたマツでもすぐ切って燃料とすれば、次の年に周囲にひろがるのを防ぐことができますが、今はだれもそうしない。それが濃厚感染の原因となり、ふつうなら病気に強い若い健康なマツまでやられているのが、現在の状況です。
マツ林の環境にもマツ自身の健康状態にも、変化がおこっています。もともとアカマツは、日のよくあたるむきだしの地面にしか若木の育たない木です。だから、人間が下生えの草木を刈り、落ち葉をかき、マツの木を抜き切りしたりしなければ、アカマツ林は一代かぎりでなくなり、べつの木の林に変わります。人間がたえず利用してきたからこそ、マツ林は何百年もつづいてきたのです。利用されなくなったマツ林の下は、うす暗くなり、厚く落ち葉がつもり、マツの代わりにべつの種類の木々の若木がそだっています。マツタケも、むかしのような状態のマツ林の下にしか生えません。そして、あとつぎのないマツは、だんだん老木になり、活力がおとろえ、いっそう病気にかかりやすくなっています。
われわれが利用しなくなった以上、アカマツ林は消えてゆく運命にあるのです。松枯れ病は、その時期を何十年か早めているにすぎません。マツ林が減れば、松枯れ病もひとりでに下火になってゆくでしょう。アカマツの枯れてしまった山には、雑木林が復活しはじめています。シイやカシの姿もみえます。かれらが、マツに代わって土をまもり、びわ湖をまもってくれるでしょう。
しかし、マツが滅びるようなことはありえません。道路工事の法(のり)面などには、どこからか種がとんできて、アカマツの苗がぎっしり生えているのを見ることができます。こういうはだかの地面にまず林をつくり、つぎにくる林のために地ごしらえをするのが、自然界でのマツの役割です。そういう場で、マツはこれからも働きつづけてゆくことでしょう。
《小林コメント》
私が「空中散布に過度の期待をすることなく、自然の摂理にかなった方法による中長期的対策」の重要性を強調したのは、まさにそういうことだからです。
ただし、一つだけ安曇野で違うのは、「われわれが利用しなくなった以上、アカマツ林は消えてゆく運命にあるのです」ではなく、「われわれが多いに利用していこう」という取り組みを始めたことです。
枯れたアカマツを伐り、間伐をし、用材としてあるいは薪やチップにして、自然エネルギーとして活用し、ナラやクヌギやモミジの雑木林や赤松も混じった針広混交林を復活させるのです。空中散布はやらないほうがいいのです。