北山の森荒山林業施行林見学会(その二)

長野県の森のあるべき姿を示す

 戦後の復興で材木の需要があり高値だった昭和30〜40年代、日本中で杉・檜の植林が進み、長野県では成長の早いカラマツが広範囲に植えられました。間伐材は土木用坑として売れるし、30年も経てば電柱材として収入が得られると期待したのです。ところが植林が終わってみれば時代は工業化に向かい、電柱もコンクリート製に。安い輸入材によって材木の値段は下がる一方。これでは山に働く者がいなくなるのも当然の成り行き、山は植林したまま放置されるようになってしまったのです。荒山林業ではそんな”手遅れ林”であっても施業(植付け、下草刈り、間伐など森林に対する作業のこと)を引き受け、森林の再生・育成に力を尽くしています。
 荒山さんは大町市北部一帯に約250haという広大な山林を所有していますが、その約7割が落葉広葉樹の自然林、約3割が針葉樹の人工林です。その一部は、カラマツを間伐したところに楓やホウの木などの広葉樹が育つようにし、さらにその下にツツジや山アジサイなどの雑木があるというような複層化した針広混交林となっており、30年後50年後の長野県の森のあるべき姿を示していると評価されている森なのです。
 今日の見学会では、その素晴らしい森はもちろんのこと、問題の”手遅れ林”に施業して広葉樹を誘導的に育てているところや、斜め植え(斜面に対して直角に植える。幹は自力で垂直に起き上がり根元がJ字形に曲がり積雪に強い木に育つ:写真)や鋸谷式の間伐など興味深い現場を見て回りました。初めて聞いた鋸谷式、これは鋸谷茂さんの提唱する新しい育林技術で、実績を上げているそうです。
 驚いたのは「切り置き」といって伐った木をそのまま山に置きっぱなしにしていること、雑な作業に見えて実は自然の理に適っているというのです。切り置きした木が林床を覆い土の流出を防ぎ、重なり合った倒木は咬み合って急斜面で滑り落ちたりたりしないから安全、そしてやがては自然の肥料になるというわけです。林床をきれいさっぱりさせて「山がきれいになった」と喜んでいるのは愚の骨頂だと。これまでの森林行政は、どちらかといえば見栄えにこだわった手のかかる施業法を推奨し補助金を付けてきた、という話も聞かれ考えさせられました。
 紅葉に染まった秋の一日、充実した森林見学ができ、今後の烏川渓谷緑地の整備にもたくさんのヒントをいただきました。