万水川の改修工事中断に思う

地元に説明がないまま突然の方針転換というけれど

 そもそも「地元」とは何を指して使っていることばなのだろうか。ハッキリ言って「利害関係者」のことではないか。私も地元穂高の人間ですが「川のバイパスを造るとともに、万水川や蓼川の護岸を1mを限度にかさ上げする」という計画を知ったのは、今年3月のこと。議員の私でこうなのですから、穂高町住民の多くはこの計画を知らないのではないでしょうか。
 安曇野を代表する景観の地、町のHPにも「満々と水を湛える河川が集まり、山頂に残雪をいただく北アルプス、広々と広がる田園風景、緑にかがやくわさび畑、道端では道祖神がひっそりとたたずむ。『安曇野穂高』の象徴の地である。」と紹介されているこの地域は、自然環境・景観はもちろん、観光地としてもかけがえのない場所です。そういう意味では「地元」というのは穂高町だけでなく、広く安曇野、安曇野市といってもいいくらいです。
 「地元に説明がないまま県は突然の方針転換をした」と、地元県議や首長が当惑しているというのですが、元はといえば「本当の意味での『地元』に説明がなく、一部『利害関係者』だけで合意形成がなされた」ために、計画を見直さざるを得なくなったということではないでしょうか。

 このことで思い出したのは、高規格道路・松本糸魚川線の問題です。国や県の担当者が「地域からの長年の強い要望を受けて…」と説明するので、地域からの要望っていったい誰の要望ですか?ときくと、関係地域の各市町村長、議会議長、議員、地域の主要団体からの要望だという。町長や議会がそんな地域高規格道路の要望をしているなんて、私たち住民はまったく知らなかったし、それ以前に地域高規格道路は必要ですか?ときかれたことさえなかったのです。それなのに、「地域からの強い要望」となっていく不思議。
 市民タイムスによれば「地元県議の間からは『40年間合意を積み上げてきた。他地域の県議の短時間の質問で変わってしまうなんて自治ではない』と強い憤りが聞かれた。」というのですが、住民の目からは松糸道路の建設推進と同じ構図に見えるのです。

 今回の改修工事については、3月下旬、町の農林課へ問い合わせたところ、担当は建設課の方だというのでそちらで尋ねてみましたが、「それは県の仕事なので、町の方では詳しいことは分らない。豊科建設事務所に聞いてください。」との返事。ということは、まだはっきりした計画ではないのかなと思いつつ、4月7日に豊科建設事務所の担当者に話を聞きました。
 説明では、安曇野の自然環境と調和した、多自然型の工法を取り入れ、コンクリート工事は極力避ける方向で行うということでした。今年は用地買収を進め、来年には着工したいとも。
 そこで私は「水害を防ぐためにバイパスを作ることはやむをえないと思うが、基本高水の妥当性などから護岸のかさ上げ工事が必要か疑問が残る。一度にすべての工事をするのではなく、まずはバイパスを作って様子を見てから、必要に応じて護岸のかさ上げ工事を考えたらどうか。」と提案してみましたが、一つの計画なので工事は分けられないと言下に否定されてしまいました。

 ならば、この担当者の感性に訴えるしかないと思い「万水川から蓼川のあたりをボートに乗って下ってみてください。水面から見える景色は何物にも変え難い素晴らしさです。護岸を1mかさ上げしても、そんなに景観には影響ないとおっしゃいますが、そんなのん気なことを言っている場合ではありません。」と言い残してきたのですが、今ごろ彼は計画見直しということになり、「ひとつ川下りでもしてみるか」という気持ちになっているのではないでしょうか。