「はじめに」の項で書いたように、この美術館を外から目にしたときに直感したもの=これまで日本にはなかったスタイルの美術館がそこにある、という期待を裏切らない美術館であった。
副館長さんのお話のなかに、「ミュージアムアイデンティティというのはたいてい美術館を作った後に、題目のようにつけられるものだが、金沢21世紀美術館では、自分達の中で位置づけ、実践し、確認していく作業の中で、作り上げていったものという自負がある」との言葉があり、構想段階から開館前の取り組み、それも市民を巻き込んだ侃々諤々の議論のなか作り上げた「わたしたちの美術館」だという自信と誇りを感じた。
また、「どうやって地域の人々に、美術館を自分達のものだと思ってもらえるようにするのかという点で非常に苦労した。開館前の美術館が、これほどプレイベントを開催した例は他にないと思う。」あるいは、「通常は建物の設計がすんでから、学芸員が入ることが多いが、ここでは開館5年前から学芸員を募集し、美術館の基本コンセプト、プログラムや収蔵品の内容などを建物に反映するように、建築家と協動し現在に至っている。」という言葉には、「やっぱりね、そりゃそうだ」と自分でも再確認した気持で、それはそのまま安曇野市の交流学習センター(図書館)建設に対する落胆と期待に重なるものとなった。
しかし、そうはいっても、落胆していても始まらないので、期待につながる取り組みを「金沢21世紀美術館」から吸収しようと、気を取り直して視察したというのが正直なところであった。
以下、感想をいくつか述べてまとめとします。
・視察に訪れた日は、たまたま市内の小中学生が課外活動で学習しており、にぎやかであった。しかし、そのにぎやかさは「うるさい」とは別次元の好奇心と活気に満ちた空気といったもので、他の大人の観覧者もそれを受け入れ一緒に楽しむゆとりが感じられ、好印象であった。従来の静的な美術館のイメージにこだわらない、この美術館の存在意義や、アートによる街づくりというものが浸透してきていることが感じられた。
・館内は有料の美術館スペースを真ん中に、その周囲を無料スペースが取り囲んでいる。この無料スペースからは、チラチラと有料スペースの展示が見え、さりげなく有料スペースへ誘い込むような仕掛けになっている。一例を挙げると、光庭と呼ばれる中庭にある「スイミングプール」(エルリッヒ作)という作品は、「あれ?こんなところにプールが・・・」と、ついのぞいてみたくなるのだが、のぞいてみれば水面下には人影が・・・。というわけで、「水底からも見てみたい」と有料スペースへ行くことになる。実にうまい作りになっている。
・無料スペースには、国内最大級の市民ギャラリーや、演劇やコンサートにも使えるシアター、子供用のプログラムが行われるキッズスタジオ、専門の図書室、カフェレストランなどが備えられ、常設の託児ルームが完備されていることには感激した。北欧では30年前、とうの昔に当たり前になっていたことが、やっと日本でも実現しつつあると思うと、嬉しい反面、遅々として進まなかったこれまでの日本の現実には、単に美術館だけの問題ではないことを痛切に感じた。