◆朝日新聞(asahi.com 2009年2月2日7時0分)より
火の車なのに評価A 総務省の三セク診断ツールお粗末
第三セクターの経営状況をつかむために総務省が作った経営診断のための流れ図で、最高評価の「A」と診断されながら、整理や支援を迫られる三セクが相次いでいることがわかった。東京都の多摩都市モノレールや、大阪市が再建を断念した「大阪ワールドトレードセンタービルディング(WTC)」などが含まれる。総務省の担当課は「診断基準が緩かったと言われてもしようがない」とずさんさを認めた。
この流れ図は「予備的診断の参考例」と呼ばれる。03年に「第三セクターに関する指針」が改定された際、自治体に定期的な点検を促すために作られた。
「単年度黒字か?」「減価償却前黒字か?」などの設問にイエスかノーで答えながら、流れ図の矢印を進む。その結果、A「経営努力を行いつつ事業は継続」、B「事業内容の大幅見直し等による抜本的な経営改善が必要」、C「深刻な経営難の状況にあり、経営の観点からは、事業の存廃を含めた検討が必要」——の3段階で診断される。
これを使い、総務省は07年度、全国の三セク4462法人を対象に調査を実施。結果はA4判で88ページにまとめられた。非公表だが、朝日新聞が入手した資料によると、Aは3884と87%を占めた。その中には昨年、経営危機が明らかになった三セクが軒並み入っていた。Bは401、Cは177だった。
Aが乱発された原因は、単年度黒字だったり、累積赤字があっても事業計画が変更されたりして「計画通り」ならばAと診断されるためだ。大阪WTCは「単年度黒字だった」が、建設に伴う約1200億円の借金があった。大阪市は「この程度の質問で経営実態はわからない」と話す。
長野県松本市が出資する発芽玄米の製造販売会社ファインフーズ梓川は「赤字が計画通り」のため、Aと診断された。しかし昨年5月、市は自主再建を断念。市は借金の肩代わりなどで3億4500万円の負担を強いられる見通しだ。
「松本市の財政を考える会」の胡桃裕一代表が07年10月、市に同社の経営状況を尋ねると、診断はAとの説明を受けた。胡桃さんは「すでに経営状況は悪化しており、市の担当職員も苦笑していた」と振り返った。
総務省自治財政局の担当課は「全国の三セクの3割は赤字と認識している。この調査結果よりもっと状況は厳しいはずだ」と自らが作った診断の結果を疑う。現在は使っておらず、「昨年6月から財務諸表を直接評価する点検方法を導入した」という。
(杉浦幹治)
以上引用です。
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さて、この総務省の三セク診断ツール(資料の中の144ページ)ですが、右上の流れ図がそれです。これなら私も見たことがあると記憶をたどってみたところ、2年ほど前、安曇野菜園の経営不振が表面化した時期に集めた情報の一つだったと思い出しました。 当時、これを見た私は、こんな流れ図で診断するまでもなく、安曇野菜園はC段階の「深刻な経営難の状況にある」と考えていたので、総務省も「ご親切なこと」と思っただけで実際に診断してみることはしませんでした。
そこで、今回あらためて安曇野菜園の決算書と経営改善計画をもとに診断してみました。経営不振のため7,000万円余のトマト栽培施設使用料が払えないという話が出た時期の第3期決算によって診断すると、最初の質問《単年度黒字か?》の答えがYesで、即Aランクとなってしまいました。7,000万円(累積では1億8,600万円)もの未払金がありながら、です。
それから1年後に作った経営改善計画書によって現時点の経営を診断してみると、《単年度黒字か?》→No→《減価償却前黒字か?》→No→《事業計画通りの償却前赤字か?》→Yes→《累積欠損金があるか?》→Yes→《累積欠損金の対自己資本比率100%超》→Yes→《事業計画(経営改善計画)通りの累積欠損か?》→Yes→《概ね所定期間内に単年度黒字可能か?》→Yesとなり、やっぱりここでもAランクの位置づけ。
朝日記事にあるとおり「事業計画が変更されたりして「計画通り」ならばAと診断される」というわけです。ちなみに、安曇野菜園の経営改善計画の「所定期間」は平成47年度まで、あと26年もかかります。こんな悠長な計画もありえませんが、総務省の考え方で行くと、現状が赤字でも債務超過でも《概ね所定期間内に単年度黒字可能》という「計画」になっていればOKだったのです。
総務省の担当課が「診断基準が緩かったと言われてもしようがない」とずさんさを認めたそうですが、その反省があるなら、総務省が全国の三セク4462法人を対象に行ったという調査結果を公表して、「これは正確な診断ではなかった」「これが現状です」と取り消しと訂正をすべきではないですか。
「役人は口が裂けても『まちがえました』とは言わないものさ」、「三セク診断ツールとやらが総務省のホームページに残っているだけ、まだましだよ」、「さっさと削除してしまいたいところだろうけど、もう文書は配っちゃったしね」と、そんな「あきれ顔の反応」が多いのですが、私はやっぱり「これはあまりにひどい仕事ぶり」と怒らずにはいられません。