安曇野市のトマト栽培第3セクター安曇野菜園(旧三郷ベジタブル)をめぐる住民訴訟は2010年8月30日、東京高裁で判決がありました。
同社に融資した3金融機関と市が結んだ損失補償契約を無効とする訴えについて、加藤新太郎裁判長は「財政援助制限法に違反し、無効」と認定。契約に基づく補償支払いをしないよう市に命じました。この部分について一審・長野地裁判決を変更、住民側請求は認められたのです。
トマト栽培施設の使用料相当額の不当利得返還請求権については、「三郷ベジの使用は指定管理者として行われたもので、賃貸借契約に基づくものではない」という市側主張を認めました。起債償還と施設使用料とには直接の法的関係はなく、三郷ベジへの不当利得返還請求権が発生する根拠とならないとして、住民側主張は退けられました。ただ、判決は「三郷村ないし安曇野市が賃貸借契約なる名称を用いてきたことにより、住民に疑念と誤解を生じさせ、本件紛争を増幅させてきたことに反省が求められる」と軟らかな表現ながら、釘を刺したかたちとなっていました。
この日、加藤裁判長は午後1時10分から立て続けに計9件の民事判決を言い渡しました。「本件上告を棄却」の連続。いずれも1件1分足らずで次々と進みましたが、三郷ベジ住民訴訟の判決ではガラリと変わりました。加藤裁判長は、傍聴席の原告の方に顔を向け「よく聞いてください」と前置きしてから判決文を読み上げたのです。そして、「議論がかみ合った。正面から判断した」と、異例ともいえるコメントをいただいたのでした。
2010年11月 25日 債権放棄するなら上告の取り下げを
トマト栽培三セク安曇野菜園をめぐる住民訴訟について、9月議会で市長は「高裁判決がこのまま確定すれば、安曇野菜園は倒産に追い込まれかねない。最高裁の判断を仰ぎたい」と述べ、上告しました。
しかし、上告したとて「倒産に追い込まれかねない」状況に変わりはありません。先日発表になった第7期決算は待望の黒字決算でしたが、緊急雇用の補助金を計算に入れたうえでの数字ですから、実質はやっぱり赤字。それに、キャッシュフローは黒字とは別の話で、現金が手元にない状況は変わりありません。つまり、損失補償で借りている借金の返済ができない・・・、未払金はなかなか減らない・・・、資金ショートのおそれも・・・。
本日の全員協議会では、いよいよ「債権放棄」の話が出てきました。市長の説明は、まったくスジの通らないものでした。三セク安曇野菜園は経営に失敗したので、施設使用料の未払金3億円余は、市として債権放棄せざるを得ない。つまり、菜園が滞納している3億円余は免除する、もう払わなくてよいことにするというのです。
市長は議会や市民説明会で「旧三郷村の事業計画は甘かった、トマト栽培事業は失敗だった」と認めています。にもかかわらず、市長は最高裁に上告しました。上告したということは、「損失補償によって事業継続している安曇野菜園については、公益性があるから安曇野市の損失補償契約は適法である」と主張することにほかなりません。市民に向かっては「失敗した」「債権放棄もやむをえない」と言いながら、裁判所に向かっては「公益性があるから損失補償契約は適法」つまり「失敗した」わけではないと主張しているのです。これは矛盾していませんか。
失敗を認めたその次には、行政の責任を明確にしなければなりません。その責任の取り方の一つとしては、高裁判決を受け入れることです。こんな事業に損失補償をした自治体(旧三郷村〜安曇野市)に責任がないなんて、市民のいったいだれが納得するでしょうか。市民に「債権放棄」をお願いするなら、最高裁への上告を取り下げてからにしなければスジが通らないというものです。