住民へ訴訟費用請求の補正予算案を可決

訴訟費用減額の修正動議は否決 賛否のやりとり2時間

 安曇野菜園をめぐる住民訴訟費用10万8千円を原告市議(小林純子)に請求する内容を含む平成24年度安曇野市一般会計補正予算(第1号)の審議、採決を傍聴した横地泰英さん(安曇野市を考える市民ネットワーク)の速報レポートを以下に掲載しますのでご覧ください。

◆安曇野市議会6月定例会最終日 市民傍聴レポート
 安曇野市の6月定例市議会は最終日の22日、安曇野菜園をめぐる住民訴訟費用10万8千円を原告市議に請求する内容を含む平成24年度安曇野市一般会計補正予算(第1号)を2時間近い審議の末、賛成多数で可決した。原告と同じ会派・無所属連合の市議3人はこの日、訴訟費用分を歳入から削除した補正予算案を修正動議したが、賛成は提出者3人と小林純子議員だけ。賛成少数で否決された。修正案に反対した多数派の指摘は修正案の文言表現にかかわる部分が多く、住民訴訟の重要性や私的利益でなく公共利益を求めた訴訟であったことなどについてはほとんど言及がなく、次元の低いやりとりに終始した。
 
 修正動議は、委員長審査報告のあと、一般会計補正予算(第1号)の審議に入ったところで提出された。無所属連合の荻原勝昭、山地重雄、吉田満男の3議員で、原告の小林純子市議は被請求者であることから、(注1)動議提出に加われなかった。荻原議員が提案説明をした後に20分間の検討時間をとるために暫時休憩となった。動議そのものが大多数の会派には衝撃だったのか、「環境経済委員会で補正予算は可決している。修正動議を出すなら委員長に一言あってしかるべきだ」、「委員会で可決したといっても全員賛成ではなかった。2人は反対討論もしてこの件に関して意思表示している」などと、休憩時間に議員間でもめる様子も見られた。

 再開後、濱昭次議員が「修正案のなかで安曇野菜園の営業権などの売却相手として『エアウォーター』となっているが『エアウォーター農園』の間違い。こんな修正案はだめだ」と指摘。「農園」の二文字追加の訂正をして審議を進めようとする提案者や議長に「訂正は認められない」と突っぱねた。再び審議はストップ。議会運営委員会で30分近い論議の末、動議の社名を訂正した。

 再開した本会議では黒岩宏成議員が「訴訟費用請求は法の解釈を逸脱するというが、どの法律のどこで逸脱するのか。自治体が訴訟費用請求することはほとんどないというが、具体的に説明を」などと動議の提出者に求めた。これに対し修正動議提出議員は(注2)「逸脱とは、住民訴訟の本来の性質からで、(注3)何件なのか詳しくないが学者らの表現から『ほとんど』になった」と歯切れの悪い説明。
 環境経済委員長の丸山祐之議員は「原告が形式的敗訴というならば市は形式的勝訴ということになる。訴訟費用を例外なく請求というのは、すべての敗訴者にか」「形式的敗訴という言葉は裁判用語で成立するのか」などと細かく詰めた。

 討論に移り、修正動議に反対した黒岩議員は「訴訟費用には税金が使われており、請求することに賛成する」。丸山議員も「最高裁が敗訴人に支払えという場合は例外なく請求するべきだというのが、私の認識。補正予算の修正動議に反対する」。提出者の吉田議員は「訴訟費用の請求は、住民訴訟の本質的な意義を考えれば慎重であるべきだ」と述べたものの、修正案の賛成者は4人だけにとどまった。

 修正動議の採決後、補正予算案原案そのものの審議に移ったが、松澤好哲議員が「これまで安曇野菜園の議論では黒塗りの資料とか、『係争中で答えられない』などという答弁が繰り返されてきた。今回、環境経済委員会ではどのような議論があったのか」などと質問。
 丸山委員長は「審議の中でこの問題をどう扱うか苦しんだ。10万8千円の予算計上の根拠については農林部所管と考えられるが、訴訟費用の請求にあたって基本的な扱いということでは総務部所管ともいえる。
 (注4)委員の中には当事者がいるが、除斥はできない。当事者個人の事情に踏み込まないようぎりぎりの審査をするということで、委員会は厳しい局面に立たされた」などと報告。訴訟費用の議論については、市側の意見として「訴訟費用の請求については法的に不備な点は認められるが、自治体は現行制度の中でやるしかない」と付け加えた。質疑を終了して、討論がないまますぐ採択。起立多数で平成24年度安曇野市一般会計補正予算(第1号)は可決した。
 
(注1)「動議提出に加われなかった」のは、法律や規則で決まっているからではありません。「訴訟費用を払いたくないから補正予算に反対していると受け取られるから、本人が動議の提出するのは良識的に考えてありえない」という周囲の言葉があったからです。
(注2)「逸脱とは、住民訴訟の本来の性質から」というのは、住民訴訟は私的利益を求めたものではなく公共利益を求めて争うもの。勝っても負けても訴えた市民に直接的な見返りはないことなど情状酌量の余地があるにもかかわらず、まったく考慮されなかったこと。
(注3)「何件なのか詳しくないが学者らの表現から『ほとんど』になった」については、長野地裁に問い合わせたところ「司法統計というものはあるが、訴訟費用の請求をするかしないかについては分らない。判決に「○○の負担とする」と書かれていても請求しないということについては、裁判所では掴みにくい・・・」とのこと。全国市民オンブズマンの弁護士や県内の法曹関係者の話では、住民訴訟に限らず訴訟費用の請求をすること自体が極めて稀とのこと。例外的に最近見られるのは、消費者金融の過払い訴訟で勝訴した原告が業者に請求するケース。
(注4)「委員の中には当事者がいるが、除斥はできない」除斥とは、手続の公正を図るために一定の者が職務から排除されること。しかし、補正予算のなかのほんの一部である10万8千円に係るということだけでは、小林純子を除斥することはできなかったということ。