福祉教育委員会視察報告(2)
~学校給食におけるフードリサイクルについて報告します~
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釧路市立釧路総合病院(2014年8月6日)
・市立病院におけるアレルギー外来の取り組みについて -
釧路市(2014年8月7日)
・生活保護自立支援プログラムについて -
札幌市(2014年8月8日)
・学校給食におけるフードリサイクル
はじめに
本年度の福祉教育委員会の視察研修は、釧路市の生活保護自立支援プログラムがメインの課題ということで、北海道を目的地とすることが決まった。
北海道へ行けるなら、浦河町にある精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点となっている、社会福祉法人「浦河べてるの家」も視察地に入れたかったのだが、北海道はとにかく広大、釧路市から浦河町に移動するだけで一日かかってしまうということで断念せざるを得なかった。
そのかわり、二泊三日の日程のなかで視察可能なところを探し、札幌市学校給食におけるフードリサイクルの取り組みに着目することとなった。札幌市教育委員会のホームページで給食について検索してみたところ、その情報量の多いこと、充実していることといったら、安曇野市教育委員会の比ではなく、それだけでもかなりの事前勉強になった。
8月8日の北海道視察研修の最終日は、札幌市役所を訪問し教育委員会保健給食課長の田村さん、栄養士の小倉さんから、(1)学校給食フードリサイクルの概要について、(2)学校授業での実際の取り組みについて、(3)学校での実践を支える連絡会議や地域・家庭との連携・支援について、(4)地産地消の取り組みと学校給食会のとの連携について、説明を受け研修した。
(1)学校給食フードリサイクルの概要について
・札幌市では従来からゴミの分別、資源化の促進に取組んできたが、その一環として学校給食を作る過程で発生する調理くずや残食などの生ごみを堆肥化し、その堆肥を利用して作物を栽培し、その作物を学校給食の食材に用いて子どもたちが食するという食物の循環「さっぽろ学校給食フードリサイクル」に平成18年度から取組んできた。
・きっかけは、山形県でのエコピック(学校給食・事業所社員食堂の食べ残しと魚市場のあらを乾燥させたものを豚の飼料に30%混入、飼料コストの低減、学校給食に肥育した豚肉を使用し食農教育)の取り組みが札幌市に紹介されたことによる。
・当時の給食の残食は10~15%もあり、なんとかしたいという思いもあった。無理強いせずに、進んで食べる子どもにするには、この食材はどこで誰がどうやって作っているのか、自分が残した給食はどうなるのか。エコピックの取り組みが食や環境を考え、単に学校給食の調理くずや残食のリサイクルだけではなく、ものを大切にする子どもを育てることにつながるのではないかとの考えがあった。
・ゴミ減量化やリサイクルの観点から、環境局の方が強い関心を寄せ、農政部、教育委員会、保健給食課が部局横断的に係って進めてきた。その中で既存の事業や取り組みの延長線上の仕事として、ゼロ予算事業として実施してきている。
・平成23年度からは、全ての生ごみ回収対象校(298校)から、生ごみ を回収している。フードリサイクル堆肥を利用した作物として、レタス・玉ねぎが全ての小・中学校と特別支援学校の学校給食に、とうもろこしは調理校149校に供給されている。
(2)学校授業での実際の取り組みについて
・さっぽろ学校給食フードリサイクルの取り組みは、リサイクル堆肥を活用して、教科及び総合的な学習の時間等や給食時間の指導と関連させ、食育・環境教育の充実を図ることを目的としている。平成18年度のモデル 校2校から始まって、現在152校になっている。
・教科や総合的な学習の時間や給食時間などを活用して、フードリサイクルの目的・意味・仕組み等を理解させる。
・リサイクル堆肥の意義を理解させる。リサイクル堆肥を製造し過程を理解する。
・教材園等においてリサイクル堆肥を活用し、作物の栽培を行う。
・栽培した作物をフードリサイクル堆肥と関連付けながら、教科や総合的な学習の時間、学校給食などを活用して食する。
・食や環境を教科及び総合的な学習の時間等と関連させる。
(3)学校での実践を支える連絡会議や地域・家庭との連携・支援について
・本事業を円滑に進めるため、関係団体、環境局・経済局・教育委員会等による連絡会議を年に2回程度開催し、連携を図っている。
・フードリサイクル連絡会議のメンバーが、毎年堆肥活用校の視察を行っている。今年度はとうもろこしの使用日に、栄養教諭による給食指導を見学し、その後子どもたちと一緒に、丹精こめて育てられた作物を一緒にいただき、フードリサイクルや食べ物の話をしながら、楽しく交流した。
・NPO法人さっぽろ農学校倶楽部の方々が、フードリサイクル堆肥を使って育てた「とうもろこし」と「かぼちゃ」を学校給食に使用している学校では、子どもたちがとうもろこしの生育の様子やおいしい食べ方を学ぶなど、子どもたちとの交流も行っている。
・さっぽろ学校給食フードリサイクルの取組を広く家庭・地域へ普及・啓発するため、リーフレットを作成している。
(4)地産地消の取り組みと学校給食会のとの連携について
・札幌市では、地産地消の取組みを進めており、学校給食においても可能な限り北海道産の食品を使用している。札幌市の学校給食における主な取扱い品に占める道産品の割合では、農産物、水産物の多くは100%となっている。
・札幌市の学校給食に使用している食品は、(公財)札幌市学校給食会、(公財)北海道学校給食会等を通して購入している。(公財)札幌市学校給食会の特色としては、特定の生産地の農協等との契約のもとに、期間を定めて青果物の供給をしていること。
まとめ(視察の成果と所感など)
○札幌市内すべての市立小学校・中学校と特別支援学校302校で完全給食 を実施しているなかで、そのほとんどすべての学校の残飯を集めて堆肥化していることを考えると、市の三セク堆肥化施設があって受け入れ可能という状況があったにしても、事業開始時の努力とその後の積み重ねには大きな熱意の持続があったと思う。
政令指定都市で都市部を含む札幌市には302校もの学校があり、その残飯の量もハンパなものではなく、またそれを堆肥化するための市独自の施設があったこと、製品化した堆肥を利用できる農業地域であるということ、こうした条件があったからこそ、学校給食フードリサイクルの取り組みに積極的になれたのだろう。
また、これら一連の事業の流れは既存の市の事業の中に取り込まれる形で進められたので、事業費ゼロで取り掛かることができ、今に至るもゼロ予算事業でやっているとのこと。ゼロ予算事業で、これだけの成果が上がっていることに驚くとともに、「行政の仕事」と「ゼロ予算事業」との関わりを考えてみるところに新しい発想の仕事や事業が見えてくるのではないかと感じた。
○フードリサイクル事業を円滑に進めるため、関係団体、環境局・経済局・教育委員会等による連絡会議を年に2回程度開催し、連携を図っているということだが、当初は教育委員会よりもむしろゴミ減量化やリサイクルの面から環境局が積極的姿勢を示し教育委員会を後押ししたという話には、さもありなんと思った。学校の教育現場というのは、新しい取り組みには意外と消極的なのである、というのは札幌市も例外ではないようだ。庁内の連携はもとより、関係団体への働きかけ、協力の要請など、うまくいっている事例として見習いたい。
また、学校給食会との連携については、とかく「地元産の食材が使われないのは学校給食会がネックになっている」と批判されることが多い学校給食会ではあるが、札幌市においてはこの学校給食会がフードリサイクル事業で生産された農作物を、市内全校の給食に届ける仕組みを担ってくれており、それなりのメリットがあることがわかった。
○生ごみ回収校298校(24年度)あり、そのうちの115校が堆肥活用校となっているなかで、この取組を通して「給食の残食が減った」「食への関心が高まった」などの実績が上がっているという。教材園(学校の指導用農園)で給食リサイクル堆肥を使い、収穫したナスやピーマンを給食に使うと、子どもが嫌いな野菜ナンバーワンのピーマンやナスでも「食べてみたら美味しかった」=食わず嫌いが少なくなっていると聞き、フードリサイクルと自校給食の良さ、教育的価値の高さを再認識させられた。
○地産地消に関しては安曇野市の給食も自慢できる水準にはあるが、北海道は食糧自給率全国一(道内で100%以上)でもあり、札幌市の給食でも農産品、水産品、畜産品などはほとんど道内産品で100%給食を賄うことができると聞き、当然とはいえ素晴らしいことで羨ましくさえあった。
○フードリサイクルの取り組みを安曇野市の給食にも取り入れたい、という思いで札幌市の取り組みに学んだが、あまりにも条件が違う(学校数17校で残飯の絶対量が少ない、市の堆肥化施設がない、自校給食ではない等々)のため、安曇野市の給食でフードリサイクルに取り組もうとすれば、相当の工夫と努力が必要だとわかったが、部分的にならば取り組めることはありそうなので検討してみたい。