安曇野市議会12月定例会・表決の時に(その2)

2014年12月23日の市民タイムス記事

~議場に国旗・市旗を掲揚するよう求める請願は
     議長決済で採択へ~

 請願第4号「安曇野市議会議場に国旗・市旗を掲揚するよう求める請願」は昨年の9月定例会から継続審査になっていました。
 この請願書には「自国の国旗に敬意と誇りを持つことは、国民として自然な感情である」、「議場に国旗・市旗を掲揚し、我が国と安曇野市への敬意と誇りを持って、安曇野市民の福祉向上のために堂々と議論を」などとあり、安曇野市議会の議場へ国旗と市旗を掲揚するよう求めるものでした。

 同じ趣旨の請願(「市議会議場に国旗・市旗を掲揚する請願」)は平成24年にもあり、その時は「市議会においては、市民に向けて市民の負託にこたえる議会改革の取り組みを進めているときに、あえて国旗を議場に掲揚しなければいけないのか違和感がある」、「国旗に対する日本国民の認識には賛否が分かれるところであり、国旗の掲揚についてどう対応するのかは国民の自由、議会の自由である」、「不採択としても市民の権利を奪うものではない」との理由から不採択となった経緯があります。

 今回もこれと同様の反対意見が多数を占め、総務委員会では不採択となったのですが、議会最終日の本会議での採決では可否同数となったため、安曇野市議会始まって以来の議長決済となりました。宮下議長は議場への国旗掲揚に賛成したため13対12となり、委員会の結論を覆して「安曇野市議会議場に国旗・市旗を掲揚するよう求める請願」は採択されることになったのです。

 ここで注目したいのは、これまで委員会の結論が本会議でひっくり返されることは、ほとんど無かったということ。委員会審査は最大限尊重されてきたことからすると、今回は異例の展開と言えます。なぜそうなったのか?私としては、安倍政権の右傾化傾向を反映したものではないかとの思いが拭えません。
 安曇野市議会議員の中には自民党系の議員が多いようで、自民党籍を持つ議員も少なくないようです。選挙では無所属で立候補していた人ばかりなので、はっきりしたことは分からないのですが、「小林さんは知らんかもしれないが、そういうことさ」とはよく聞きます。というわけで、国政と同じに自民系に公明党が連携する形になり、国旗掲揚を推し進める流れができたのではないかと推測するわけです。

 私は小中学校の教師として、またPTAや保護者として学校と長年関ってきましたが、1989年の教育指導要領の改訂(注1)、平成1999年の国旗・国歌法の制定、2006年の教育基本法の改定など、公私ともに私の子育ては時の政権による教育への管理強化の流れと重なってぶつかってきました。
 教育を管理する発想は(本来の教育とは相容れないものですが)、国家の方針に沿う国民を育成するためには効果的で、それは歴史的にも国旗・国歌の強制という形で行われてきたことを忘れてはならないと思っています。ここへきて、東京、大阪という東西の中心地で、その首長自らが先頭にたって、こうした流れを強く推し進めていること(注2)に大きな危惧を感じているところです。

 請願者は「国旗に敬意と誇りを持つことは、国民として自然な感情」、「議場に国旗・市旗を掲揚し、我が国と安曇野市への敬意と誇りを持つ」と強調していますが、自然な感情とするなら自然体の対応で、一人ひとりの内心の自由に委ねるべきですし、国や自治体への敬意と誇りは国旗や市旗を掲げることで生まれるものとも思われません。
 そしてなにより、請願者のように議場に国旗掲揚を望む市民もあれば、私のように望まない市民もあるということを忘れてはなりません。国旗の掲揚は個人の自由ですが、議場は多様な価値観を持った市民の存在を背景に成り立っている場所であり、地方分権・地域主権が叫ばれている地方議会にあって、なぜ今あえて国旗を議場に掲揚しなければいけないのでしょう。私は反対です。
 加えて、「長野県議会の議場には掲揚されている」、「県内19市のうち4市が掲げている」、「全国的に議場に掲げる議会が増加している」といった右へならえ的な無批判な追随は、もっとも議会らしくない態度であると考えます。

 さて、「議場に国旗・市旗を掲揚するよう求める請願」は採択されたわけですが、次の日の市民タイムスには「6月定例で掲示される見通しだ」との記事が載りました。宮下議長のコメントとして「議場での掲揚に反対する理由がない」ともありました。
 しかし、ちょっと待ってください。「陳情・請願には絶対的な法的拘束力はない」ということを忘れてはいませんか。実際これまで採択された請願・陳情が、すぐその通りに実現したことは、残念ながらほとんどないのです。ましてや、今回の請願は議会に直接関わるものですが、全会一致で採択したのでもなく、反対議員が12名もいたのですから、全員協議会での議論は欠かせませんし、その先には「議場に国旗を掲揚する決議」をあげるとか、市議会が国旗掲揚を決定したという何らかの手続きを踏まなければできないはずです。
 「議場での掲揚に反対する理由がない」というのは議長の見解ですが、早計にすぎます。可否同数で議長決済となったわけですから、充分に議論して安曇野市議会としての方針を出すべきです。

◆議案に対する議員別賛否については一覧をご覧ください。
http://www.city.azumino.nagano.jp/gikai/info/2014/12/kekka.files/sanpiichiran.pdf

(注1)学習指導要領 平成元年の改訂は、「我が国の文化と伝統を尊重する態度を育成するための一環として、国旗及び国歌の指導については、日本人としての自覚を高め国家社会への帰属意識を涵養するとともに、国際社会において信頼される日本人を育てる観点から、その充実を図ることと」とされ、学校行事における国旗掲揚と君が代斉唱が強化されていった。

(注2)橋下大阪市長が代表を務める「大阪維新の会」が原案を作成した大阪府と大阪市のいわゆる教育基本条例案(府は可決)や、石原東京都知事が卒業式や入学式で君が代を起立して斉唱しなかったなどとして懲戒処分を強硬に進めたこと。