セクハラ事件を通して見えた市のセクハラへの無理解

~安曇野市役所セクハラ問題の経緯について~

日経電子版・WOMAN SMART キャリアより「セクハラ泣き寝入りは防げるか 改正均等法の強化点

 

 2018年3月から5月にかけて、安曇野市役所に非常勤職員として採用されてまだ間もないAさんは、他部署の係長であるB職員から何度も性的内容を含むメールを送られました。Aさんは、新入の非常勤職員という弱い立場から、メールに当たり障りのない穏やかな返信を続けました。

 

しかし、次第にメールの内容が「手を縛っていい?」「キスしてあげる」などとエスカレートしてきたため、上司に相談。加害職員Bは所属課の上司から「厳重注意」を受けたもののAさんには謝罪もせず、むしろばかにしたような態度をとるようになりました。それでもAさんは、自分の立場を考えると、なかなか事を荒立てることはできませんでした。

 

その後もB職員はAさんに謝罪をしないまま、翌年3月には課内で昇格することがわかりました。Aさんはセクハラを受けた自分の苦しさ、悔しさが「なかったこと」にされたことにショックを受けて、K市議会議員に相談することにしました。もう市役所内で相談することはできないと考えたからです。

 

K市議が副市長を通じて事実関係を確認したところ、B職員はAさんに不適切なメールを送ったが、その不適切な内容に応じて返信したAさんにも非があったとして、セクハラ行為ではなく「当事者同士の問題」とされていたことが判明しました。市側の説明では、「当事者同士の問題」というのと同時に「けんか両成敗」という意味不明の言葉がたびたび聞かれ、セクハラ問題として取り合わず軽く扱った経過が見えてきました。

 

AさんはK市議とともに、「セクハラだと訴えたのに、それが認められていないのはおかしい」と再調査を求めました。市はあらためて両者に聞き取り調査を行ったうえで弁護士3人に相談し、さらに分限懲戒審査委員会で検討することになりました。しかし、再調査を求めてから結論が出るまでに9カ月もかかったうえ、市は規則・規程どおりの懲戒処分を行わず、B職員の加害事実が公表される事もありませんでした。

 

その間、Aさんがセクハラを訴えていることが周囲に漏れたのか、職場の雰囲気が一変し、精神的にも追い詰められていきました。年が明けた2020年1月には、年度末での雇い止めを言い渡され、そのころには既に体調を崩していたこともあり、退職を余儀なくされました。

 

現在、AさんはK市議の紹介で労働組合「LCCながの」に加入し、B職員と市による正式な謝罪、事実の公表、再発防止の具体策提示、雇い止め理由の明示、相応の補償を求めて、市と団体交渉を行っているところです。

 

安曇野市は、Aさんの要求に対して誠意ある対応をせず、かえってAさんに対し二次加害となるような発言を繰り返しており、嘆かわしいことこの上なく、市民として恥ずかしい限りです。

 

ところで、安曇野市役所のセクハラ問題が進行していたまさにその時期、2019年5月の国会で、改正男女雇用機会均等法が可決・成立し、職場でのセクハラ防止対策が強化されたのでした。

 

 セクハラをしてはいけないことが初めて法律に明記され(残念ながら罰則はない)、セクハラ相談をした労働者に対する不利益な取り扱いの禁止や、セクハラ被害者が相談しても無視されたり、意に反する対応をされた場合、第三者機関の調停を受けられるなど、4点のセクハラ規制が盛り込まれた法改正です。

 

 今回のセクハラ事件を通してわかったことは、市行政にはセクハラに対する正しい認識が欠けているということ。セクハラは大したことではないと考えているようで、「お互いにせいぜい気を付けましょう」ですませている実態が明らかになりました。

 

 セクハラは「意識の問題」が大きいと言いますが、この意識を変えるということは本当に難しいことです。しかし、行政の職員であるなら、どんなに意識を変えることが困難であっても、法に従って仕事をする義務があるはずです。改正男女雇用機会均等法のセクハラ規制をしっかりと理解し、セクハラ防止に努力することで、自らの意識改革につなげてもらわねばなりません。

 

日経電子版・WOMAN SMART キャリアより
セクハラ泣き寝入りは防げるか 改正均等法の強化点
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