トマト栽培施設は「公の施設」ではない

2013年2月13日 22時50分 | カテゴリー: 活動報告

~安曇野市第三者委員会が調査結果を報告 再発防止へ「損失補償の禁止」を提言~

一時期、安曇野菜園で栽培されていた高糖度トマト「安曇野ルビー」

(安曇野市を考える市民ネットワークの横地泰英さんがまとめたレポートです)

 経営破綻した「安曇野菜園」の調査と提言を市から委任されていた第三者委「安曇野市三郷トマト栽培施設問題調査会」は2013年2月13日、調査結果報告書と再発防止の提言をまとめ、報告した。報告書は、菜園の前身・旧三郷ベジタブルがずさんな事業計画、甘い経営見通しに乗り、三郷村の行政職兼務者に経営を任せたことで破綻を招いた。安曇野市へ合併後も適切な経営判断を欠き、生産体制の改善も遅れ、財務諸表などの情報公開も不十分だった。これらが住民監査請求や訴訟につながり、市政の混乱と不信を招いたとしている。再発防止策として「損失補償の禁止」に踏み込んだことが注目される。

《第三者委員会委員》
 座長は公認会計士・税理士の東方久男、信大農学部教授の佐々木隆、弁護士竹内喜宜の3氏。 2011年12月27日に審議を委任され、11回の会合を重ね、関係者から事情を聴いた。

《甘い事業計画》
 当初構想からきわめて甘かった。カゴメ(株)の「全量引き取り約束」などを裏付ける文書などは存在せず、初年度から1億円超、3年度から2億円超の当期利益などもすべて幻だった。損益計算は2通りの方式が存在し、3期までの当初計画上の月当期利益は、損益計算書の実績値と開きがあり、正確な比較ができない。スタート時点で経営判断を誤る要因となった。

《国・県・村の補助金決定のありかた》
 2002年(平成14年)12月、県庁で事業主体を村とし、事業の骨格が固まった。事業費20億円、国の農政局保留3億4千万円を優先実施、不足額6億4千万円は補正事業で実施。補正予算債を使う場合村は14年度補正で予算化―など、国の補助金の見通しが立ち、村が施設を建設し、会社を運営する原点となった。国・県・村の補助金決定過程のありかたに反省が求められる。トマト栽培の採算を検証せず、事前の事業計画や資金計画が精査されていない。カゴメ(株)や村の責任分担が明確にされてない。外部有識者の検討もない。三セク以外の民間ベース対応を最後まで模索すべきであった。

《開業費の過大支出》
 2004年(平成16年)3月、会社は2千万円を開業費として経費処理。菜園代表取締役の山崎毅氏に送金した。設立時の資本金3千百万円に対し、3分の2の資金流失。東方座長は「常識外、論外。問題の出発点がすべてここにある。そういう人が事業を構想し、実態を踏まえた損益計算がなされていない。行政は民間経営を生かすセンスがない」と記者会見で述べた。西山馥司・旧三郷村助役と山崎氏は平成20年1月まで共同代表取締役。なれ合い体質、計画無視の対応は明らかだとしている。

《機能しなかった取締役会、経営計画》
 会社設立から解散までの議事録を調べたところ、2010年9月まで議案の結論だけで審議経過の記述はなかった。たとえば2006年10月30日の取締役会は第3期決算承認議案がなく、株主総会招集の件だけで30分で終了。2007年11月15日の取締役会は第4期決算承認議案がなく、株主総会招集の件だけで50分で終了。これらはいずれも会社法違反であり、とんでもないことだ。各年度の事業報告がないか内容不備。計算書類の公告違反、各年度の付属明細書未作成。仕掛品の評価方法の記載不備など、法令が順守されていない。  
 第1期から8期までの「経営改善計画」で提示された売上高を見ると、2期、3期は当初中期計画のほかに単年度計画、月別売上計画があり、それぞれで売上高が異なる。基準目標が不明確なためと思われる。また毎年のように「改善計画」が作成され、売上高の目標がそのたびに変わっている。売り上げ目標を設定しても達成困難で、他方高い目標を設定しないと黒字転換できないという状況で出された改善計画。経営計画は状況追随となり、機能しなかった。  ラウンド、プラム、デリカ。期別・品種別の生産量を見ると、当初事業計画の達成率はいずれも年を追って低下。販売量も低下した。売上高も計画を達成できなかった。

《住民訴訟・損失補償契約に係わる判決》
 一審の長野地裁は2009年8月7日、損失補償の支払い差し止めを求める部分について、請求棄却の判決。
 控訴審の東京高裁は2011年8月30日、請求を棄却した部分について1審判決を取り消し、原告請求を認めて安曇野市長に対し支払いの差し止めを命じる判決をした。判決理由は精緻な法理論を展開しており、三セクに対する財政支援と地方公共団体の財政健全化という観点からも実務に重大な影響を及ぼす判決として注目された。
 最高裁は2011年10月17日、本件の主たる債務が会社清算段階に入り、すでに弁済されたことを理由に、市が将来公金を支出する蓋然性がないことから、地方自治法に基づく差し止め対象行為が行われることが確実に予測されるとは言えないことから、同訴えは不適応として高裁判決を破棄し、支出の差し止めを求める訴えを却下した。

《住民訴訟判決が提起した問題点》
 村から財政援助を受けた会社のトマト栽培事業そのものが公益性、公共性の観点から村にとって有益なものであったかどうか、その事業運営が公益目的にとって適法かつ適正になされたかどうかという点に集約される。
 さらに会社は損失補償契約により、金融機関から融資を受けたただけでなく、村が出資して設立主体の中心となって投資対象にされ、村がトマト栽培施設を建設している。最高裁が指摘するように、損失補償契約について地方自治法に照らして裁量権の範囲内かどうかを判断することからすると、村の投資そのものの適法、適正について判断されなければならず、トマト栽培の事業施設が地方自治法による「公の施設」として、地方公共団体の指定管理者制度の対象になり得たものかどうかという観点の分析も必要となる。
 高裁判決は、トマト栽培施設の使用方法が指定管理者の制度に適合していたかどうかまで判断していないが、特定企業のために指定管理者制度が便宜的に利用されたものである。

《公の施設とは》
 指定管理者制度は、公の施設(地方自治法244条)の設置の目的を効果的に達成するために必要があると認められるときは、法人その他の団体で地方公共団体が指定するものに当該公の施設の管理を行わせることができるという制度である。
 「公の施設」は住民福祉を増進する目的をもって公共の利益のために住民の利用に供し、多数の住民に対し均等に役務を提供することを目的として設置された施設である。したがって、「公の施設」と言えるためには、第1に住民の利用に供するための施設であるから、公の目的のために設置された施設であっても、住民の利用に供することを目的にしないものは公の施設ではない。
 具体例を挙げれば、図書館、体育館、美術館、公民館などは住民の利用に供することを本来の目的にするものであるから公の施設であるが、研究所、庁舎などは住民の直接利用を前提としてないから公の施設に該当しない。

《本件トマト栽培施設は公の施設に該当しない》
 正に温室トマト栽培による生産・販売を業とするための施設であり、この施設を利用してトマトの生産販売は企業活動であり、地域住民がトマト栽培のために利用する施設ではない。副次的効果として雇用拡大により村民に労働の機会を提供し、福祉を増進するということがあるにしても、直接の目的が公共の利益のために、住民の利用に供する施設とはいえない。
 したがって村がトマト栽培施設を設けて、これを指定管理者制度のもとに管理者を指定してトマト栽培事業を委託するということは法の予定しない制度である。 結局、本件トマト栽培施設については、本来的に制度の対象外である企業施設を「公の施設」として扱い、適正な管理者の指定手続きを経ず、指定管理者の村との法的関係を不明瞭にし、指定管理者である法人に対する村の直接的管理が及ばないような運営をするなど、指定管理者制度を便宜的に利用したものと評価される。

【再発防止の提言】
 調査結果報告書と別に調査会は「再発防止の提言を」まとめた。三セク運営や設立などへの留意事項、経営悪化時の対応などを具体的に列記しているが、設立時の留意事項として「損失補償の禁止」に踏み込んだ。
 資金調達方式としては事業自体の収益性に着目した考え方を基本とすべきであり、これに基づく資金調達が困難である場合には第三セクター方式による事業化を原則として断念するべきである。こうした事業であっても公共性、公益性の観点から実施する必要がある場合には、補助金等により、財政の安全性を高めることを通じて資金調達が可能となるようにすることが適当である。将来の新たな支出負担リスクを回避する観点から、第三セクターの資金調達に関する損失補償は、行わないこととすべきである。

 報告会の最後に、傍聴者との質疑があった。「三郷ベジタブルの経営改善を望む市民の会」の諌山憲俊さんが「住民訴訟をやった市民の会の代表」として「損失補償契約の禁止にまで踏み込んでいただき、ありがとう」と評価。行政が2度と利益追求、税金を垂れ流しさせぬよう注視するよう裁判までやり通した。市も今回(第三者委員会の調査を通じて)検証システムをつくったのはよき前例であり評価に値する」と前置きしたうえで、①責任が大きい会社幹部3人(山崎、西山、三澤賢二氏)と平林前市長からは聴取できたか ②現市長が原告市議に訴訟費用の支払いを求めていることをどう考えるか ③エアウォーターとの指定管理契約期間がいきなり10年というのは長すぎる。施設の建てなおしなどの問題などが考えられるが「そのつど協議」というような表現が多すぎ、危惧すると、3点を質問した。

 東方座長は、①西山、平林氏は聴取に応じた。三澤氏は「西山氏が代表」と断り、山崎氏は高齢を理由に断った ②訴訟費用については、行政の判断について座長としてなんとも言いかねる ③清算後、現在の菜園経営は見違えるように変わった。これなら大丈夫と思った。ただ、指定管理の10年契約は確かに長い。一般的には3~5年だろう。