ツギハギだらけの年金行政(その3)

ファム・ポリティックス〈2007年夏号〉より情報提供

「ツギハギだらけの年金行政」(その3)
     ファム・ポリティックス〈2007年夏号〉より

*問題だらけの国民年金*
 地方公務員共済組合法が成立した1962年(昭和37年)、同じく国民年金制度もできている。戦後の財政再建政策が効果を挙げ、オリンピック景気で経済も上向きの頃である。
 ずっと蚊帳の外だった自営業の人たちにも年金ができ、これにより、いわゆる「国民皆年金」が実現した。但し、サラリーマンの妻(いわゆる専業主婦)は、原則無収入なので、任意加入とした。払わなければ、無年金である。

 国民年金には当初から問題がたくさんあった。払いやすいようにと掛け金を安くしたので、当然支給される額も少ない。おまけに厚生年金や共済年金では事業主が拠出金を全体の半分出しているところ、「事業主が自分」であることからその分の上乗せがない。
 本来、拠出金に当たる部分(つまり半分)を国庫(税金)が負担する約束だったが、「予算がない」ということで、完全には実現していない。最初から空手形を切られた見切り発車の年金なのだ。
 また、「皆年金」といっても収入が少なければ支払えないので、給料から天引きされる他の年金と違い、計画的に予算が立てられない。こうして、日本の平均寿命が延び始め、年金給付の総額が多くなってくると、支給の見通しが立たなくなってきた。

*基礎年金制度は財政事情だけを考えた思いつきと妥協の産物*
 そこで国は、これまでは自営業者に対する年金だった国民年金相当の支給分を「基礎年金」という名前にして全国民一律とする(1985年)。その時、今までは「払いやすい」を第一に考えてきた国民年金保険料を、「もらう額」を基準に算定して引き上げたのだった。
 さらに、①これまで任意加入だったサラリーマンの妻も国民年金に強制加入させるが、②妻の保険料はサラリーマンである夫が自分の保険料とともに厚生年金を通じて支払う、というウルトラCを考え出した。
 これにより、当時はまだ潤沢だった厚生年金の一部が、「基礎年金」という形で国民年金に振り替えられることとなった。

 しかし、サラリーマンといえども一馬力でいきなり二人分の保険料を支払えるわけがない。抵抗が強かったので、保険料は据え置くことにした。
 保険料は上げず、二人分をどう支給するか?結局、「夫婦仲良く添い遂げれば、夫婦合算の年金支給水準は今まで通り。但し、独身を通したり、死別や離婚をすると妻の基礎年金分だけ給付が下がる」ということになった。その結果、同じだけ保険料を納めても、配偶者の有無で給付される年金額に差がつくという、公平性を欠く制度となったのである。しかも、厚生年金の報酬比例分は夫に独占されてしまい、妻側にはいっさい来ない。それで、今度はその点を何とかしようと、2007年から離婚した女性に半分厚生年金がいくように、またまた小手先の修正を加えた。
 最初から財源の見通しも甘く、その場しのぎの行き当たりばったりで改悪を重ねてきた年金制度は、完全に精度疲労を起こしている。

 1997年の基礎年金番号統一開始に当たり、「事業主(企業)」が管理する厚生年金、「市町村」が管理する国民年金を一括管理するために、これまで市町村の長が責任を負っていた国民年金の事務が社保庁に移管された。市町村の納付記録は、それ以降5年を超えての保存義務がなくなる。
 現在、一部の原簿台帳が破棄され、コンピューター上のデータと突合せができないのは、この時の事務移譲が、責任をもって慎重に行われていなかった上に、社保庁から「破棄してよい」と通知が来たからである。全1827市町村のうち、破棄したと回答した自治体は191あった。

 あちこちのネジがはずれ出し、一つひとつを拾って締め直そうとしても、組み立て工程そのものが間違っているのだから、いつか空中分解してしまうのは目に見えている。
 いまやその実体が、ようやく国民の目に見えるようになった、というべきか。

*社保庁解体・民営化で年金制度は救えるか?*
 「社保庁はデタラメ」「親方日の丸の考え方を改めなければならない」「民営化すれば、もっと迅速に解決する」。
 政府・与党はここぞとばかりに社保庁の職員をたたき、社保庁を解体して「ねんきん事業機構」を立ち上げようと語気を荒らげる。
 しかし、ちょっと待て。景気の浮き沈みなどで倒産しない、利潤追求より国民の福祉を考える、だから大切なものは「官」が「税金」でやってきたのではなかったか?「親方日の丸」は、安心の旗印ではなかったのか?
 柳沢伯夫厚生労働大臣は6月12日の参議院厚生労働委員会で、かつての厚生官僚についてこう述べている「(年金を)使っちゃえ、後でいくらでも取ればいい、という考えの人がいたと聞いたことがある」「(厚生年金の)草創期は今考えると、とても支持できない乱暴、粗雑きわまりない議論があった」

 では、法案提出からたった4時間の「審議」で強行採決した「社保庁改革法案」は、未来の厚生労働大臣から「乱暴、粗雑きわまりない議論があった」との謗りを受けない自信があるのだろうか。
 この「改革法案」からすると、社保庁は3年後に「ねんきん事業機構」となるべく、現場の正規職員からどんどん減らされていく。これから「宙に浮いた年金」「消えた年金」「未入力の年金」をすべて台帳と突き合わせ、同時に国民に対して丁寧な対応をしていくことが必要だというのに、マンパワーは足りるのだろうか。

 既に「ようやく電話が通じたと思ったら、出てきた相手は派遣の素人で、年金のことは何もわからず謝るだけ」といった苦情が噴出している。年金の照合費用だけでも、1000億円はかかるのではないかと言われる。この事態に、またぞろその場しのぎで数年持ちこたえればよしとするのではなく、今度こそ将来を見据え、本腰を入れて安定した年金制度の構築させなければならない。

(フリーランスライター・仲野マリ)
(財政問題研究者・青木秀和監修)

※ファム・ポリティックス
〒162−0062 東京都新宿区市谷加賀町2—5—26
TEL03(3260)4771 FAX03(3260)4773